やあヘビだよ。
今回は2020年ノルウェーのディストピアホラー映画 Netflix「殺人ホテル」の感想。
事故か戦争か、
核の被害で世界は崩壊しそこらに死体が転がる近未来で生き残った人々は寝床と食料を求めてさまよっていた。
元舞台女優のレオ、夫ヤコブ、娘アリスの3人はたどりついた街で食事つきの演劇を宣伝する男からチケットを購入することになる。
後日舞台となるホテルで豪華な肉料理がふるまわれた後に主催者のマティアスが現れショーの説明をするとそれはすぐに始まった。
ショーは舞台も観客席もなくホテル全体が会場となる演劇で参加者は演者と見分けがつくように用意された仮面をかぶって気になった演者を追いかけて行く。
すると次第に演出とリアルの境界線があいまいになり混乱する中でホテルの恐ろしい真相が見えてくる。
破壊された終末世界にドンと佇む立派なホテル、パリッとした主催者、優雅な食事と劇という絵はとても不気味で怪しい魅力がある。
そしてこの不思議な魅力によってストーリーの矛盾が気にならなくなっている。
それどころかあえて細かな説明をしないことによって不思議な魅力が保たれているような絶妙なバランスを感じたりもした。
そんな不思議で違和感たっぷりな「殺人ホテル」の魅力について語っていこうと思う。
映画全体が演劇的な怪しい魅力

この映画は崩壊したはずの世界の中に立派なホテルがあってその中で演劇が始まるから非現実的な不気味さがある。
物資も食料もないはずなのに豪華な肉料理を出し立派な身なりをしているホテルの人たち。
伊藤潤二の漫画「サーカスが来た」のサーカスの人たちのように怪しすぎるホテルの人たち。
だけど思い返してみればホテルの前から演劇的不気味さはあった。
唐突に現れるホテルのショーを宣伝する男は勿論だけど、
その前の親子3人がマンションの1室に落ち着いてるシーンでさえ演劇的な違和感による不気味さがあった。
誰もが寝床や食料を手に入れようとしていていきなり襲われる危険がある状況なのに娘のアリスが子供部屋に一人きりで寝かせられてる違和感。
誰かにドアを叩かれても3人固まって警戒しない違和感。
そんな演劇的な小さな違和感が興醒めする方向に働くことなくうまい具合に不気味な魅力として観る人を取り込んでいく。
シチュエーションと話の矛盾のバランス

映画を観ている人はそれぞれの出来事が劇か現実かわからなくなってくる。
そのうち深読みをして映画を見ている人を騙すためで実際はマティアスの言う通り全部演出なんじゃないだろうか。
そのなかでレオだけが殺人を犯してしまったんじゃないかなどなど、、、
そんな最悪なエンディングまで期待した部分もあった。
そんな何を信じていいかわからないショーだからよくわからない事もそのまま自然と受け入れる事ができたのかもしれない。
というか製作者側があえてシチュエーションを犠牲にしてまでストーリーの辻褄を合わせようとしてないんじゃないかとすら思えてくる。
どうやらマティアスは有名演出家でこのホテルの火災で娘をなくしてからホテルを買収してるらしい。
でも大掛かりな仕掛けなんかは核の被害後に作ったものなのか以前に作ったものなのか。
後だとしたら有名演出家だった事で財力はありそうだけどそんな大掛かりな工事をする物資を集められるだろうか。
また、参加者をあんな短いスパンでどんどん入れたら色々とバレるリスクがあるんじゃないか。
そもそもサーカスだったら移動できるけどホテルなんだから同じ場所で長いこと人さらいを続けてたら噂になるんじゃないか。
いやその前に破壊された世界であんなに大勢の参加者がどんどんくるだろうかとか。
そんな辻褄の合わなそうな事もショーの中でうまいこと煙に巻かれてシチュエーションに酔わせてくれる。
参加者、演者、裏方

最初は参加者とホテルの人たちの二つの構造だと思って観てたけど実際は演者も真相を知らなかった。
そして裏方という存在があってその仕事を演者は知らなかった。
- 主催者マティアス: 総演出
- 参加者: 食事付きの演劇を観にくる観客
- 演者: 劇を見せながら参加者を地下へ落とす (参加者から物を盗むためだと知らされている)
- 裏方: 落ちてきた参加者を食肉加工する
マティアスは演者と裏方を別々に動かしていた。
地下の食肉加工場で作業する裏方とその地下への出入りが禁止されている演者の間には情報の壁がある。
ホテル側がみんな同じだと思ってた観る人にとって騙す側のはずの演者もマティアスに騙されてたというもう一つワクワクする要素が生まれる。

裏方いいよねえ
感情がなさそうで

演者が感情豊かだから余計にコントラストが際立って怖かったな

一人だけ演者と会話してるヤツがいたけどアイツ以外会話できなそうな感じすらあった

うんうん
なんか人間じゃなさそうな感じがするんだよね
躊躇なく首捻って殺すし
ただただ忠実に働いてるとこも怖いし

仮面かぶってるってだけで確認もなしに首捻って殺すの怖いよなw

しかしどうやって裏方を操ってんだろうなマティアスは

演者の方は参加者から物盗んじゃおうぜって味方にするとしても
裏方の忠実さは謎で不気味だよね
劇と現実の境目

有名演出家だったマティアスだけあって演出の腕は確かなようだ。
仮面をつけている人は参加者
仮面をつけていない人は演者
レオたちは娘がいなくなったことによって演劇どころじゃないと仮面をはずしてしまう。
カトリーヌたちの方は私の子供 (スザンヌ) もいなくなったと仮面をはずすけど実際は最初から演者で仮面をはずして演者に戻っただけだった。
そして少しずつ参加者がいなくなる演出。実際にいなくなって肉になるけど、、、
怖い目に遭うというのは最初からの約束。
マティアスがホールに演者をあつめて檄を飛ばす演出じゃないように見せかけた演出は巧妙だったね。
参加者にあれを見せる事で予想外の失態を叱りつけてるように見えるからこれ以上のハプニングはないと心理的に安心させることができる。
演者にとっては右腕のような存在のラケルが叱りつけられる事で見せしめになってよりマティアスにより支配されることになる。

劇が始まった途端レオたちは簡単に仮面を捨てるからすごいハラハラするよね

仮面持ってれば危なくなった時にかぶったりできるのにその選択肢を無くす行動を安易にしやがる

まったくその通りですよ

しかしマティアスよかったなあ
食肉を手に入れるのが目的ではあるだろうけどそれ以上に演劇が目的っぽい感じもよかった

なんとも気になる人物だったな
できればあんなにマティアスの娘のことを説明しすぎないで謎の人物のままにしといて欲しかった

うんうんそれはあるね

ラケルがマティアスに渡した封筒の中の写真で
マティアスにはアリスにそっくりな娘がいたんだとわかるし、
レオが隠れた時に見かけた新聞の切り抜きで
娘を失った経緯も場所も説明できてるんだから、
刺された時のマティアスのセリフはこすりすぎに感じた

刺された時はそんなにこすってないだろw

まあでもアリスが娘にそっくりだったから奪ったっていちいちセリフにすることはなかったな

それそれ
娘の写真だけで全てを語ってた感じがしたから新聞すらも余計に感じた

まあねえ
シチュエーションとストーリーの曖昧さがお互いを引き立てた全てが作り物のような「殺人ホテル」よかったですねえ。
そういう意味でもホテルを後にしたアリスの手を引いたレオがホテルを振り返って終わるってのがなんともちょうどいいとこで終わったよね。
全体が演劇っぽい作り物っぽい世界だったからレオがホテルを振り返るとホテルがなかったとか、ホテルが炎上して崩れ去っていくとかでもすんなり受け入れられたと思う。
夢オチ、、、はさすがにやりすぎかなw
最後にあの振り返る行動とレオの表情が全てを語っていて余計な説明がなくてすごくいいエンディングだった。
それでは最後にホラー脳のヘビが強引にレオのその後を妄想して終わりたいと思います。
終末世界でただ寝床と食料を求める日々を過ごしていたレオ。
情熱あふれる舞台女優だったレオにとってそんな日々は心が死んだも同然だった。
そんな中、殺人ホテルでの事件。
いなくなった娘を命懸けで探し敵を出しぬいて夫を犠牲にしながらも無事娘を助け出す体験は生きる情熱を思い出すには十分すぎる出来事だった。
別世界のような煌びやかな演劇ホテルから色褪せた終末世界に戻ったレオだったが、
演劇こそ生きる糧だと再認識してアリスを連れてホテルに戻る。
すると死んだはずのマティアスも騙されていたはずの演者も全て演出でレオを新しい仲間として迎え入れてくれた。
あくまでも個人の感想です。みんなはどう感じたかな?