やあヘビだよ。
今回は2017年アメリカのサスペンス「クリニカル」の感想。
精神科医のジェーン・マシスはクリスマスの夜、担当していた患者のノラに襲われて重症を負う。
トラウマ治療をしながら2年間の休業をしていたジェーンは誰も住んでいなかった実家を改修して診療を再開する。
様々な患者を診療しながらも顔面をひどく損傷した男アレックス以外はなにも問題ないはずだった。
しかしトラウマのクリスマスが近づくと入院しているはずのノラが再び襲い掛かってくる。
この映画はトラウマを抱えた精神科医が再び患者に襲われるサスペンス。
精神科医ジェーン視点だから一見ジェーンはただの被害者のようにみえる。
でもその診療には違和感を感じるものがあり、患者に寄り添う医者には見えない部分があった。
ジェーンが夜中にドアを開けっぱなしで外の様子を観に行ったりするさまはかなりスリリング。(その隙に侵入されるでしょうが)
そして面白かったのが登場する3人の精神科医が3人ともタイプの違う人間というところ。
真摯に患者と向き合う医師、心のない無機質な医者、理想を求め本質を見失う医師。
バランスの取れたうまい配置だなあと思った。
そんな三種三様な精神科医の事にふれつつ医師に恨みを抱いた患者の立場から考えてジェーンをたたいてみようと思う。
ジェーンが復帰してからの診察の様子やプライベートでの薬の飲み方をみているといい医者とは思えなかった。
診療で患者をバカにしたような悦に入った笑みを浮かべていたし、話を聞いていても途中で遮って決断を下したりする。
そもそも軽い症状の患者だけを扱うとテリー医師と約束していた事から、大したことのない患者だと高をくくっていたのかもしれない。
助けを求めにやってきた患者本人にとってはたまったもんじゃない。
あんな態度でカウンセリングなんかされたらノラじゃなくても殺意がわくと思う。
ジェーンは薬物療法を望まない主義ですみたいに言っていたけど自分はトラウマに対処するために薬を飲んでいた。
しまいにはそれでも足りなく酒で流し込むようになった。
トラウマを克服する難しさを身をもって知っているはずだ。
それなのに患者にトラウマと向き合わせて薬は出さない主義だという。
それは裏を返せば「あなたは私ほどつらくないでしょ?」と言っているようなものだ。
トラウマと向き合わなければ解決できないと言うのはそのとおりかもしれない。
でもそれならそれできちんと治療の予定を説明して
「今は最終の治療にむけてこの段階です」
そして
「今日はこういう効果を狙ってこういう事をしていきますよ」
と患者が理解するように説明しなければいけないとおもう。(素人の個人の意見です)
ジェーンには精神科医の適正が無いようだ。
誤診によってノラは結局自殺してしまったし、犠牲者が増える前に自己満足な診療を辞めるべきだ。(辛辣)
いったい何がアレックスの歪んだ人間性を形成してしまったのか。
アレックスは顔面を損傷するまえから娘をレイプする異常者だった。
顔面を損傷してからはテリー医師、クララの顔面を切り裂いていたしジェーンもやられそうだった。
ジェーンに告白したとおり娘を自殺に追い込んだ “精神科医” に対する激しい怒りを感じる。
精神科医の顔を切り刻んだのは
「俺がこんな目にあったのもお前らが娘の頭の中をいじくりまわしておかしくしたせいだ。同じ目にあってみろ」
という事なのかもしれない。
ジェーンが言ったとおりアレックス自身も歪んだ人格になるほどの何かを幼少期とかに経験してるような気がした。
ジェーンのところに診療に来たのはノラの復讐をするためだとしても助けを求めたのは本当だったんじゃないだろうか。
久しぶりに人と話してうれしくなって診療のない日に訪れたのは本心のように感じた。
そして久しぶりに人と話したというのは顔面の問題だけではない気がした。
自己満足な診療をおこなうジェーンに対して登場するほかの二人の人間性が面白かった。
テリー医師はジェーンと真逆で真剣に患者に寄り添っているような印象を受けた。
そして必要ならば診療の補助として投薬も選択肢に入れるという考えは共感できる。
トラウマはトラウマになるほどの体験をしてトラウマになったのだからいきなりトラウマを思い出して向き合ってトラウマを克服しろってトラウマになりますよ。 (、、、は?)
「はい思い出して向き合って!薬は出さないよ!」
とかあまりにも酷だ。
もう一人のソール医師はいいキャラだったねえ。
精神科医に対しての偏見を具現化したようないいキャラだった。(悪いキャラ)
これに対してはこの薬。理屈では対処できない。
みたいな血も涙もないソール医師はこの映画にとって重要な役割だったと思う。
精神医療はここ何世紀も発展が無いなんて話もある。
実際統合失調症もうつ病もいまだ解明には至ってないらしい。
他の分野みたいに血中のこの物質が下がってる、または病巣が小さくなってるからこの薬が効いていると目に見えてわかるわけではないからねえ。
今までの症例にのっとって予想で投薬したりカウンセリングしたり手探りでやるしかないんだろうね。
患者が安定したようにみえてたのにいきなり自殺したなんて話はよく聞くよね。
暴れる患者は薬でおとなしくさせるしかない場合だってあるだろう。
自分の主義に反した対処をしなくちゃいけない事が多いだろうから辛そうです。
ノラは誰にも相談できずにジェーンのところへきた。
でもジェーンには真相を見抜けなかった。
複数担当医とかにすれば誰かが事の重大さに気づけなかっただろうか。
でもそれにはまず複数担当医をつけるほどの重症かどうかを見極めなきゃならないのか。
精神科医は大変だ。
あくまでも個人の感想です。みんなはどう感じたかな?
- ジェーン・マシス (ヴィネッサ・ショウ): 精神科医 若い頃両親が亡くなり実家から出ている 自分の患者だったノラにガラス片で襲われて2年休業してた トラウマ治療中
- ノラ・グリーン (インディア・アイズリー): ジェーンの患者だった少女 1998年2月2日生まれ
- アレックス (ケヴィン・ラーム): 顔をひどく損傷した男 復帰後のジェーンの診療を受けに来る
- テリー・ドラモンド (ウィリアム・アザートン): 精神科医 ジェーンの元同僚 ノラに襲われた後ジェーンの担当医になる 思いやりのあるいいお父さんのような人物
- ソール (ネスター・セラーノ): 精神科医 休養にはいったジェーンの後任のノラの主治医 後にジェーンの主治医になる マニュアルを重視したような診療をする血も涙もない印象をうける男
- マイルズ (アーロン・スタンフォード): ジェーンの恋人 警官
- クララ (シドニー・ターミア・ポワチエ): ジェーンの友人