やあヘビだよ。
今回は2022年アメリカのホラーヒューマンドラマ「ハリガン氏の電話」の感想。
原作は2022年スティーヴン・キングの未発表小説コレクション「If It Bleeds」の中に入っている「Mr. Harrigan’s Phone」。
主人公クレイグはテレビドラマシリーズ「ジェイコブを守るため」で同級生を殺害した疑いがかかる少年ジェイコブを不気味に絶妙に演じたジェイデン・マーテル。
孤独で厳しい老人ハリガン氏はドナルド・サザーランド。
クレイグは州で最も裕福な老人ハリガン氏の豪邸で本の読み聞かせの仕事を小学生の時から5年間続けていた。
高校生になったクレイグはハリガン氏にiPhoneをプレゼントする。
最初は嫌がっていたが株式市場の動きや経済ニュースの速報が読めることを教えると子供のようにハマっていった。
2人はiPhoneでやりとりをするようになって奇妙な友人関係の距離がもっと縮まったようだった。
ある日いつものようにハリガン氏を訪ねるといつもの椅子に座ったまま亡くなっていた。
クレイグはうっかり持って帰ってしまったハリガン氏のiPhoneを棺桶のハリガン氏にこっそり持たせてやった。
埋葬が済んで自宅に帰ったクレイグは悲しみのあまりハリガン氏のiPhoneにメッセージを送信した。
すると翌日返信があった。
この映画は母を失った少年と偏屈で裕福な老人の奇妙な友情の物語。
だけどそこはスティーヴン・キング。
それだけでは終わらない。
埋葬されたはずの友人から返ってくるメッセージ。
そして死んだはずの友人が祈りに答えてくれたことによって死ぬまで後悔する事になるホラー。
畳みかけるようにエスカレートする恐怖、
徐々に否定できなくなっていく怪奇現象、
激しく後悔する事になる死者への願い事をクレイグの目線から考えてみようと思う。
この映画のテーマは導入部でクレイグが語っているとおり、
オスカー・ワイルドの本をまず読むべきだったかもしれないという後悔。
読んでいれば死者にあんな願いをかけなかったかもしれないという後悔。
その本の中の言葉は
“When the gods wish to punish us, they answer our prayers.”
(神々は我々を罰しようとするときに願いをかなえてくれる)
これは怖いですねえ。
願いがかなうのが罠のように見える。
これは願いが叶うという事はほかの誰かが不幸になるかもしれない。
願いが叶う事によって不幸になるかもしれない。
という意味があるそう。
迂闊に願掛けをするもんじゃない。
願掛けをする前によく考えてみる必要があるかもしれない。
ましてやクレイグの場合は死者にお願い事をしてしまった。
ハート先生の話でもあったようにむやみに死者を呼び出すもんじゃないと思う。
聖なる霊だとしても。
お父さんが言っていたことわざに “人は埋葬されたら地上の心配はするなと言われている” というのがあった。
そうだよね安らかに眠る人に心配をかけてはいけない。
スマホを毛嫌いしていたハリガン氏だったけどクレイグが使い方を教えるとすぐに覚えて子供のように夢中になった。
そして情報であふれる未来を予測して案じた。
「間違った情報も事実として伝わる。携帯で今以上に無意味な情報が広まったらどうなる?新聞やジャーナリスト政治家皆が携帯を恐れるべきだ」
ハリガンさんすばらしいよくわかっていらっしゃる。
今日インターネットは瞬時に得られる情報の代償にゴミも積み重なっていますよ。
そして情報が精査される間もなく四方八方に噴出していますよ。
さらにタイトルで釣って広告掲載の条件である文字数をクリアしただけの中身がないブログが乱立していますよ。
「調べてみたけどわかりませんでした。いかがでしたか?高評価お願いします」
すぐに、片付けたい (錯乱)
情報がすぐ手に入るというのはいいことではあるけど見極める能力が大切になると思う。
あふれる情報の生活のなかで自然とそういった能力は育っていくとは思うけど。
昔は情報は少なかったけど次の日の朝に学校で拡散するまえに考えたり親とそのことについて話し合う時間があったのがよかったような気がする。
現在は脳で考える間もなく瞬時に拡散することができてしまう。
嘘も真実もプロパガンダも。
ヘンリー・デヴィッド・ソローは言った。
“人が所有するのではなく物が人を所有する”
そうならないように自分の脳で考える癖をつけ、最新機器を生活を豊かにするツールとして使っていきたい。
幼い頃に母を亡くしたクレイグ。
実はハリガン氏も同じく幼い頃に母を亡くしていた。
ずっと孤独感を感じていたハリガン氏は自衛のために人嫌いで厳しい人物になった。
孤独な老人は純粋に友人が欲しかったのもあっただろう。
でもクレイグを読み聞かせに選んだのは捨ててきた自分、孤独な幼い自分に向き合うためだったのかもしれない。
クレイグを慰めると同時に封じ込めていた幼い自分を慰めていたのかもしれない。
自分の事のようにクレイグを心配したハリガン氏はクレイグに約束をさせる。
「敵に出会ったら、すぐに、片付けろ」
「約束しろ!」
クレイグがハリガン氏に関する記事を検索したことがあったけど、ハリガン氏のニュースには “死” がまとわりついていた。
ハリガン氏が “片づけた” のだろうか。
クレイグが高校に入ると早速ケニー・ヤンコヴィッチにからまれる。
ケニーが大麻を売ってるのがバレて退学になるとクレイグに「チクっただろ」と詰め寄った。
クレイグは “片づけろ” を実行しようとケニーを殴るがしこたま殴られた挙句これで終わりじゃないことをほのめかす。
クレイグは棺桶の中のハリガン氏に電話して報告した。
するとケニーは翌朝死んでいた。
ケニーに殴られて倒れたクレイグと同じ格好で。
さらにはクレイグに食わせようとした靴墨を自分で食っていた。
たまたまだと自分に思い込ませて過ごしていた。
ハート先生の母校エマーソン大学で寮生活しているクレイグにお父さんから訃報が届く。
ハート先生の乗った車に酔っぱらったディーン・ウィットモアという男の車が正面衝突したらしい。
優しくてクレイグの味方になってくれたハート先生は亡くなってしまった。
ディーン・ウィットモアは禁固刑を免れ更生教育という名のゴルフクラブのような高級施設での生活を送ることになった。
クレイグは怒りハリガン氏に電話する。
そして
「死んでほしい」
とはっきりと言ってしまった。
そんな事があるわけない。
後悔と恐れのなか数日を過ごした。
大丈夫何もないと思った矢先にディーン・ウィットモアの死亡記事を見つけてしまう。
シャワー室で自殺したらしい。
ハート先生が愛用してた石鹸 “Booth Bay Soap” を飲み込んで窒息死。
さらに遺言にはハリガン氏が好きだった曲、タミー・ワイネットのスタンド・バイ・ユア・マンの歌詞の一節、“keep giving all the love you can” (愛のすべてを捧げ続けなさい) を残して。
高級施設の高級石鹸がたまたま一緒だっただけかもしれない。
印象に残った曲がたまたま一緒だっただけかもしれない。
でもクレイグにとっては確信の材料には十分すぎるものだった。
ハリガン氏のお墓に謝罪と見守ってくれた感謝を述べる。
ハリガン氏の近くに母のお墓はあった。
母の死を実感したくないために最初の墓参り以来近づいていなかった。
母に謝罪するクレイグ。
ごめんなさいの意味が
「墓参りに来なくてごめんなさい」
だったらどんなに良かったことだろう。
でもごめんなさいの意味は違った。
「僕は人を2人も殺してしまった」
「悪い子になってごめんなさい」
「どうしようお母さん、、、どうしたらいいんだろう、、、」
後悔が押し寄せる。
消える事のない罪を背負ってしまった。
人生は始まったばかりなのに。
あくまでも個人の感想です。みんなはどう感じたかな?
- クレイグ (ジェイデン・マーテル): 幼い時に母を亡くしている 父と二人暮らし
- ジョン・ハリガン (ドナルド・サザーランド): 州で最も裕福な男 人嫌いで厳しい人物 幼い頃に母を亡くしている
- ビクトリア・ハート (カービー・ハウエル・バプティスト): ゲイツ・フォールズ高校の科学の教師 ローウェル出身 エマーソン大学卒 愛用の石鹸 “Booth Bay soap” のいい香りがする
- ケニー・ヤンコビッチ (サイラス・アーノルド): 高校のいじめっ子 大麻を売ってるのを見つかって退学になるがクレイグを逆恨みする
- クレイグのお父さん (ジョー・ティペット): 息子と真摯に向き合ういいお父さん いまだに妻を失った悲しみが抜けない
- マージー (アレクサ・ニザック): 幼馴染の女の子 クレイグに思いを寄せている
- レジーナ (タライア・トリオ): クレイグが思いを寄せるクラスメイト
- エドナ (ペギー・J・スコット): ハリガン氏の家政婦
- ピート (トーマス・フランシス・マーフィー): ハリガン氏の庭師
- チック・ラファティ (ランディ・コヴィッツ): ハリガン氏の会計担当
- ディーン・ウィットモア (ダニエル・リース): ハート先生が乗った車と正面衝突する男 ハート先生との事故の前も4回飲酒運転で事故を起こしているため無免許
- ジョアンナ・プール: クレイグのお母さん クレイグが幼い頃に死亡