やあヘビだよ。
今回は2021年Netflixによる32分間の短編SFヒューマンドラマ「隔たる世界の2人」の感想。
グラフィックデザイナーの黒人カーターはタイムループに囚われていた。
昨日出会った女性ペリーの家のベッドで目覚めて犬が待つ自宅に帰ろうとアパートから出たところで白人警官のメルクに難癖をつけられたあげく殺される。
するとまたペリーの部屋のベッドで目覚める。
行動パターンを変えて何度挑戦してもやっぱり殺されてしまう。
99回目でカーターはメルクに全てを話して理解してもらおうと試みる。
この映画の脚本は2020年に白人警官が黒人を逮捕する最中に死亡させた事件の2か月後に書かれている。
そして当然白人による人種差別問題を訴えるメッセージがこめられた作品。
題名の隔たる世界とは白人と黒人世界の隔たりを意味している。
人種差別についてのメッセージが強いこの作品だけど、
難しい問題だしそれについてはあえて触れないで語っていこうと思う。
触れないにしてもストーリーがかなり面白く評価するべきところなので
そんな短編映画で上手く描かれたストーリーの構成や設定の面白さについて語ってみようと思う。
タイムループものは面白い

単純にタイムループものは面白いよね。
何度もトライできるSFっていうのはワクワクする。
失敗に対して作戦を練って成功するよう挑戦することができる。
納得がいっていない過去の出来事に対策を立てて挑戦しなおしたいという願望はみんなにもあるんじゃないかな。
ただこのタイムループのルールが映画の中で明確に説明されてないし完全に明らかにされてない。
死ぬとループのスタート地点 (ベッド) に戻るようだけど死んでもループできないケースはないのだろうか。
ループすると思い込んでいるけど死んでそのままのケースがあるとしたら怖い。
また、集中治療室で人工呼吸器につながれるとか懲役300年で刑務所に入れられるとか、
死ねないでループできないケースも最悪だ。
でも100回も殺されたら囚人のほうがましだと思ってしまうだろうか、、、
死んでも死ぬ前からループが始まるけど痛みや苦しみや死ぬ恐怖などが毎回ちゃんとあるわけだもんね。

2004年の映画「バタフライ・エフェクト」みたいに
過去を変えれば死なないで済むとかじゃないから深刻なんだよね

そういう意味で言えば警官にはカーターを殺すっていう目的があるから
ある意味もう詰んでるんだよな
警官からうまく逃れて自宅の愛犬と会うことが目的のゲーム
この映画はプレイヤーが警官からうまく逃れて自宅の愛犬と会うことが目的のゲームだ。
プレイヤーは黒人のカーター、警官は白人のメルク。
<黒人プレイヤーカーター>
目的: 自宅に帰って愛犬に会う
試練: 白人警官メルクに殺されないよう回避する
ゲームオーバー: 殺されるとゲームオーバーでベッドの上から強制リスタート
タイムループしても記憶は消えることがなく経験値が積み上がるので成長要素がある。
<警官メルク>
目的: カーターを殺す
試練: カーターは死から逃れようとする
ゲームオーバー: 今のところ不明
カーターは死んだら最初からスタートでアイテムもリセットされるからこれはまさにローグライクゲーム!シレン系!不思議なダンジョン系!

星座占いの話があってビックリした
占いをするのはアジア人ぐらいかと思ってた

西洋にも占いあるよタロットとか

そうだった
カーターもペリーも自然に占星術の話をしてたね

何年か前にアメリカで星占いがブームにって記事を見たような気がする

なるほど
たしかにブームかってぐらい普通に何座だからああでこうで言ってたね

パトカーの中でも星座の話してたからカーターが星占いが好きで
ペリーと出会った時に
君はてんびん座だからどうのって口説いたんじゃないかな
観客を一度安心させることによる効果

観客を一度一安心させる事によってその後のメルクの告白の衝撃がより強いものになっている。
メルクのパトカーに乗ってアパート付近から離れる事がハッピーエンドかのような錯覚に陥る。
それは今までカーターがペリーのアパート付近から逃れることができずに99回も殺されてきたからゴールはこのエリアから離れる事のように思い始めているからだ。
もちろんカーターがメルクとパトカーの中で語り合うのも安心材料ではあるんだけど。
でもカーターが自宅前で射殺されてこれでもダメだったかとなってから
「犬が待っているから家に帰らないと」
と言っていた冒頭のセリフを思い出す。
そしてドアの前で待っているゴール (犬が待つ自宅) が映る。
そうだゴールは犬に会う事だったんだまだ気を抜いちゃいけなかったんだ。

パトカーのメルクずるいよな
「いじめを受けていた」
とか言って完全に打ち解けたようにみえた

思った思った
それも嘘だと思うと怖い

あんなに打ち解けた後で平気で殺せるってのもすごい怖い

しかしパトカーのなかでも隔たれてたな

隔たれてたねえ
パトカーとして当たり前なんだけど隔たれてたねえ
ストーリーの中で語られる人種差別のメッセージ
ペリーが銃を持っているって話をしている時にこんなことを言っていた。
「アメリカに住む黒人女性なら当然よ」
「でも相手が黒人だったら撃たずに話をするだけ」
銃を持ったら持っていたで銃を持ってるぞ!って撃たれてしまいそうな気がするけど、
犯罪から守ってくれるはずの警官がメルクのように難癖をつけてきて撃ってくるんだったら銃を持って身を守るしかないよね。
この映画のメインテーマだから当然だけど、
人種差別を訴える箇所がたくさんあったよね。
タバコを吸ってたらタバコじゃないだろって言われたり、
所持品検査を強要されて拒否すると暴れたという事にされたり、
泡立て器を持っていただけなのにナイフを持ってるぞと撃ち殺されたり。
パトカーのなかでは黒人差別について語り合った後にメルクが
「こんなに黒人と話したのは初めてだ」
って言っていた。
こういった議論は普段からされているんじゃないかと思っていたけど白人と黒人でこの内容を話す事が珍しいんだろうか。
白人の大半がそうなのか、このメルクの悪いイメージを強調するための演出なのか。
こういうことって白人でも黒人でもなくアメリカに住んだこともないと本当にわからないよね。
残念ながらこの映画のどれが当たり前なことでどれが特殊なことか判断が難しい。

100回のうち1度だけの反撃でも警官を襲う黒人ってことにされてしまうんだろうねえ

抗議運動への流れもそういうとこなんだろうな

始まりは今回の事だけじゃないってことだよね
警官もタイムループしていたと判明した時の恐怖

メルクがカーターを自宅に送り届けた後のセリフは怖かったねえ。
敵もループを把握していた恐怖。
1986年のソビエト連邦映画「不思議惑星キン・ザ・ザ」のシーンを思い出した。
妻に買い物を頼まれた主人公が不思議な砂漠の惑星に飛ばされてしまって、
藁にもすがる思いで言葉の通じない異星人の乗り物に乗せてもらってしばらくしたときに異星人が
「だいたい嫁が俺を買い物なんかに行かせるからこうなった」
くわしい言い回しは忘れちゃったけど突然異星人がロシア語でこんなことを喋りだすんだ。
主人公が頭の中で思ってたことをペラペラと。
今まで取るに足らない言葉も通じない野蛮な異星人だと思ってたのに実は高い知能をもっていてすごいスピードでロシア語を習得するばかりか人の心を読む能力まで持っていたと判明したときの怖さ。
わかる人いるかなあ。
話を戻そうか。
カーターは白人警官のことをゲームでいうと行動パターンをプログラムされたNPCのようなものだと思ってプレイしていたわけだ。
ところがNPCじゃなくプレイヤーだった!
こわいですねえ。
そりゃあカーターが逃れられないわけだよね白人警官もこれから起こることを把握してて毎回学習してるんだから。
しかし99回目でメルクは反則をしたんじゃないか?
今まではカーターを殺すのが目的であっても一応カーターを殺す理由みたいなものを無理矢理つくってたよね (実際は殺していい理由なんかにならないけど)
マリファナをもってるだの怪しい大金をもってだの公務執行妨害だの。
最悪警官から逃げてるからあやしいとか。
でも99回目はカーターを自宅に送り届けてから背中を普通に撃ってたよねダメだろあれはw
それほど理不尽な差別なんだぞというメッセージなんだろうか。
何度もループを繰り返すシーンの中で一回だけメルクが怪我してた回があったよね。
カーターは試しに反撃か先制攻撃をしてみたけど結局失敗したようだ。
メルクを怪我どころじゃなく先制攻撃で撃ち殺してみたらどうかとも思ったけどカーターにとって理不尽なバッドエンドしか想像できないよねえ。
それでも黒人は絶対にあきらめない。
どれだけ時間がかかっても
何度繰り返しても
俺は絶対に
犬が待つ家に帰るんだ
あくまでも個人の感想です。みんなはどう感じたかな?